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睡眠不足で癌になる 「24時間戦えますか」 というキャッチコピーが一世を風靡してから20年以上たちました。コンビニエンスストアの増加と足並みをそろえるように、あらゆる業種で深夜働く人が増えています。 しかし夜間勤務は人間の体にとっては大きな負担です。勤務歴15年のタクシー運転手さんを対象にした調査から、長年にわたって夜間勤務を続けても体が完全には適応しないことがわかっています。 睡眠障害に悩む人の割合は昼間勤務者の6倍以上高く、仕事中に注意散漫になりがちです。実際に従業員の睡眠不足が誘因になったと推測される事故には、スリーマイル島原発事故 (1979年3月)、スペースシャトル・チャレンジャー爆発 (1986年1月)、チェルノブイリ原発事故 (1986年4月)などがあります。 それだけではありません。睡眠不足の人は睡眠が足りている人と比べて高血圧を約2倍発症しやすく、夜間勤務者の高血圧発症率は昼間勤務者の3倍です。 さらに、満腹中枢を刺激する物質の減少と、摂食を促す物質の増加を招くので太りやすくなる上に、動脈硬化、心臓病、脳卒中、糖尿病、さらにはうつ病の発症リスクが高まることも確認されています。 この背景には体内時計の乱れがあると考えられています。人間はもともと昼間活動して夜間眠るように調節されているので、このリズムを作るのに欠かせない働きをするメラトニンというホルモンは午前1~2時ころ分泌量が最大になります。 しかし夜間勤務者ではメラトニンが昼間勤務者の約5分の1しか分泌されません。そのため睡眠障害が起こりやすくなるのですが、このメラトニンは他にも重要な機能を持っています。 実はメラトニンは癌細胞の増殖を抑える癌抑制遺伝子の発現と、性ホルモンの分泌に深く関わっています。そのため夜間勤務の女性は乳癌を発症しやすく、昼間勤務者の乳癌発症率を1とすると交替勤務の女性では1.8、夜間勤務者は2.9になります。 そのため欧州の一部の国では、夜勤がつきものの看護師と客室乗務員が乳癌に罹った場合に労働災害を適用することになりました。 では男性はどうでしょう。日本で行われた世界初の研究から、工場や病院、ホテルなどで交替勤務に就く男性は、昼間勤務者と比べて前立腺癌が3倍発生しやすいことが明らかになりました (「交替制勤務者の前立腺がんリスク」より)。 前立腺癌は女性の乳癌と同様に性ホルモンの影響を強く受ける男性の癌です。この他に大腸・直腸癌の発症率も交替勤務により上昇することが報告されています。 ではどうしたら健康を守ることができるでしょうか。現代社会において夜勤自体を禁止するのは不可能ですから、深夜業を行っている企業は事業者側と従業員の双方に健康教育を行い、健診などを充実させ、深夜帯に仮眠できるようなルールを作る必要があります。 そして仕事以外の理由で夜更かし癖が抜けなくなった人は体内時計を整えることが重要です。体内時計は光と摂食行動によっても左右されるので、朝起きたら光を浴び |
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