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天気が崩れると体調が悪くなるのはなぜ 雨が近づくと、喘息の発作が起きたり、頭痛がしたり、関節が痛くなるなどして天候の変化を予想できる人がいます。気象が体調や病状に影響を及ばすことは昔から知られていましたが、その原因には、まだ完全には解明されていません。 しかし、特に台風が接近しているときに強い症状を訴える患者さんが多いことに加え、高原に行くと喘息が起きる、飛行機に乗ると頭痛がする、という声がよくあることから、気圧の変化が関係すると推測できます。 低気圧が起こす最大の障害は低酸素症です。登山だと、標高1500メートル付近から低酸素の影響を受けて頭痛、吐き気、体のだるさなどの症状が始まると言われています。 このとき酸素はどのくらい薄くなるのでしょうか。台風の勢力を表すヘクトパスカルという気圧の単位で表示すると、通常の環境の気圧は約1023ヘクトパスカル(1気圧)です。このときの酸素量を100とすると、標高1500メートルでは気圧が約850ヘクトパスカル、酸素量は86になります。 しかし台風の場合だと、かなり勢力の強いものでも940ヘクトパスカル程度ですから、酸素量は減っても95程度です。そのため、この程度しか酸素が薄くならないのなら、低気圧は関係ないだろうと考える専門家もいます。 しかし、低気圧による問題は、低酸素だけではありません。気圧が下がると、脳や血管をはじめ、あらゆる組織に対する外からの圧力が減り、その結果、体内の細い血管が広がります。 喘息患者さんは、空気の通り道である気道に炎症があり、細い血管から血液中の水分が組織に滲み出して浮腫が起きています。低気圧が接近して、この細い血管が広がると浮腫が進み、症状が悪化します。関節痛でも同じ現象が見られます。 頭痛もそうです。頭痛にはいろいろな種類がありますが、主な原因は脳血管の拡張と考えられています。ということは、脳の細い血管が広がれば頭痛が起きやすくなるわけです。 そしてもう1つが、湿度の影響です。梅雨時や台風が近づいている時は空気中の湿度が上がります。人間は、気温が上がると、汗、吐く息、皮膚表面から大量の水分を蒸発させて、気化熱の形で熱を体外へ放出して体温を下げています。しかし、湿度が高いと水分がなかなか蒸発しないので、体温のコントロールが難しくなります。 そのため、体は次の手段として、皮膚表面の血管を広げ、心拍数を増やすことで外気の力を借りて血液の温度を下げようとします。暑くて顔が真っ赤になった状態を思い出してください。健康な人なら何の問題もありませんが、喘息患者さんは浮腫がひどくなり、関節炎など炎症のある人は患部が腫れ、頭痛持ちの人は脳に流れ込む血液量が増えて頭痛が始まります。 さらに、空気中の湿度は酸素の濃度にも影響を与えます。温泉大浴場のドアを開けると、一瞬、息が詰まったように感じますね。少し難しい話になりますが、一定体積中の酸素量は、気圧、温度、水蒸気分圧の3つで決まり、温度が一定なら水蒸気圧が上がると酸素量が減少します。つまり、湯気がもうもうと立ち込める大浴場は酸素が薄くなっているのです。 さらに、自律神経や二酸化炭素濃度も低気圧の影響で変化することが指摘されており、一つ一つは小さなダメージでも、いくつも重なることで、敏感な人ほど体調の変化として感じ取るのだと考えられます。 低気圧に対抗するのは困難ですが、湿度に関しては扇風機などを使って部屋の中に空気の流れを作ってください。気流によって皮膚表面の湿度が変わると楽になるはずです。服装も風通しのよいものにしましょう。この時期は、特にしっかり治療を受けることが重要なのは言うまでもありません。 |
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